2030年の地方の中・小型オフィスの標準となるべき建築を目標とした
埼玉県内の会計事務所
JAS構造材個別実証事業により1500万円の助成をいただいている。
延べ床面積:348.82m²
木造(CLT工法)、地上二階建て
計画:2019年11月~2020年6月
工事:2020年6月~2021年3月
発注者:(真下会計事務所)
設計・監理:株式会社白江建築研究所
施工 建築:ワイケイホーム株式会社/太陽光発電システム:株式会社恒電社
2030年における地方の中・小型オフィスの標準となるべき建築の実現を目指した。
会計事務所である施主は地域経済を主導する立場にあり、近未来の建築モデルとして周辺地域に普及可能で、今日の地域の技術力の延長上で実現可能な ゼロエネルギー建築を目指した。
完全なZEBの実現、耐震性を建築基準法の1.5倍確保、CLT構造の採用により建設時に発生させる温室効果ガスよりも多くの二酸化炭素の固定と日本の林業活性化の一助となることを目指した。建設業界に広く普及している住宅用建材や既製品を使い、地域の建設業界がすぐに取り組むことができる建築になっている。敷地はハザードマップ上安全性が高い場所であり、地域のストックとしても期待できる。
CLT工法は先進的な技術であり、構造上主要な部分の製作図の作図から工場製作・加工・建て方までを材木会社が一括して請け負う傾向にある。このため建物全体の工事を請け負う建設会社は、構造体に関する管理を合理化しやすく、仕上げ等に注力しやすい。そしてこれら構造以外の工事項目は、住宅とほぼ同じなのだ。CLT工法の一般建築は、住宅中心だった地域の工務店がステップアップしやすい分野である。特にゼロエネルギーを目指す建築の場合は、一般建築用資材の開発が遅れており、住宅用資材を多用せざるを得ない。住宅を得意とする工務店に優位性があるのだ。今回も工事を受注したのは住宅メーカーであり、内装材の選定などに関する顧客対応など、住宅メーカーの強みが発揮される局面もあった。政府の方針では2030年には新築の平均でZEBを達成することとされている。僅か10年後には半分以上の新築建築をZEBにする必要があるのだが、ヒートブリッジ対策などZEBへの対策が容易で、住宅メーカーも取り組めるCLT工法は大きな力になるはずだ。
外断熱と高性能建具による建物の高断熱化と、高効率換気システムにより建築の省エネ化を計り、太陽光発電システムを設置することにより快適なゼロエネルギー建築の実現を目指した。
BEI:-0.21(1次エネルギ消費量は基準に比べて121%削減)
BPI:0.59(断熱などによる建物外皮の熱負荷が基準の59%)
PAL設計値:274 基準値:470
本建築は、ZEB(ゼロエネルギービル)の中でも最上級の「ZEB」であり、建物の光熱費は0以下になるものと思われる。
しかしBELS計算上は建物内で稼働するパソコンなどの業務用電気機器の電力を含めると、ギリギリでカバーできない結果となった。
しかし計算上の事務所建築の電力負荷は実態より厳しい設定になっていると思われるので、実際にはそれらの負荷を含めてもゼロエネルギーになるものと期待している。
厚さ3cmほどの板を繊維方向が層ごとに直交するように貼り合わせた厚い大きな板を用いて建築を作る構法。CLT(クロス ラミネイテッド ティンバー)を構造に使った工法は 耐震性、断熱性、遮音性、耐久性に優れている。CLTには国産の杉が使用され、日本の森林資源の有効活用や循環型社会の実現につながる。本計画は林野庁のJAS構造材個別実証事業に採択された。(助成額1500万円)
2030年のZEBの基本形を提示するに当たって、経済性、機能性(省エネ性、耐震性、耐久性、快適性)を優先すべきであって、木材の情緒的魅力については、ことさら表現すべきではないとの思いがあった。特に、屋外に木材を現しで使うべきではないとの考えがあった。また建物外周部の多くが延焼の恐れがある範囲に含まれ、この部分に関するロックウール外断熱とCLT関連法規の整備が進んでいないため、内装もほとんど木材を現しで使うことはできなかった。結果として木材が見えるのは、屋外では玄関庇の下面の液体ガラスを塗布したCLTのみとなり、屋内では階段(CLTの端材を段板に使っている。)のみとなった。